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ようやく新しい時代の扉が開けられる。その筆頭がVRで、始まりがVR
米国法人 エンハンス CEO/クリエイター
シナスタジア(共感覚)をテーマに、ゲーム、音楽、映像など多岐にわたる創作活動を行っているクリエイター水口哲也さん。テトリスの共感覚VR拡張版「テトリス エフェクト」ローンチ後の今、改めてVRに関してインタヴューを行った。
水口さんはあの90年のVR最初の国際会議に参加されたのですか?
国際会議行ったのは90年の春だと思います。その4月セガに入社して1週間目に会社に自費で行くので休みだけくださいと言ったら凄くビックリされました(笑)。それでも行かせてくれましたね。その時にジャロン・ラニアー(VRの父と言われている人)が来たり、凄くエキサイティングでした。僕はもうVRをやりたくて、その最善の道は何かって考えたときにゲーム産業やエンタテインメントの世界が一番近いと思って、それで飛び込んだんです。
自然にVRに惹かれていった。
VRに関心を持たれたキッカケは何だったのですか?
VR自体は88年ぐらいから武邑光裕さん(当時日本大学藝術学部専任講師)のところでかなりディープなリサーチをやっていました。武邑先生のアプローチはメディア美学というメディアアートやテクノロジーなど、フォーミュラとかヒストリーを研究しながらこの先どうなっていくのか、メディアがどう変わっていくのかというリサーチだったんです。自然に僕はVRに惹かれていきました。また、VR発祥のアメリカで、VRがどのように生まれて来て何を目指そうとしているのかという考え方を、若いときに自分の中にインストール出来たのは凄くラッキーなことだったと思います。
実際にセガ入社後、情感デザイン研究室のリーダーになっていろんなリサーチやプロジェクトの中にVRの研究が含まれていたんです。当時のヘッドギアを分解・改造してヘッドマウント型のものにプロトタイピングしたり、業務用VRのアーケードマシンやバーチャリティとかを使って研究開発を2、3年頑張ってやったのですが、当時のテクノロジーだとどうにもならなかったですね。重い、遅い。見た目はインパクトがあったのですが、実際にゴーグルをかけてもリアリティや没入感は弱いんです。解像度が足りないし、センサーも重く精度が良くなかったので、ユーザーが感動的な体験をするにはまだ時間がかかると実感しました。一通りやったあと、僕はセガラリーなどのアーケードゲームの開発に携わることになりました。実際に筐体を動かしたり振動させたりしてゲーム体験を作りました。その後、Rezやスペースチャンネル5などの、音楽とゲームを融合させた作品に取り組むようになったんです。
四角いモニターに世界を押し込めるというフラストレーション
実際のイメージにハードがついて来ないので表現が出来なかった?
そうですね。頭の中の表現に全然追いつかない。Rezをつくっている時も、頭の中ではVRのイメージをずっと持っていたんです。でも現実には、眼の前にある四角いモニターに世界を押し込めなきゃいけないというフラストレーションがありました。実はもう気がつくと29年この業界にいますけど、ずっとフラストレーションとの戦いでした。毎回毎回、頭の中のイメージと実際に出来上がるものとの乖離に苦しみながらずっとやって来たところがありますね。それでも2014年頃に、次のVRの波はようやく本物になりそうだと感じました。日本では1年くらい遅れたと思うんですが、アメリカではもう始まっていたので、すぐにアメリカで起業して今のエンハンスを立ち上げました。アメリカで法人として、SIEやHTCとかオキュラス、グーグル等のVRに取り組むプレイヤーと直接やり取りしたほうが早いので思い切って会社を設立しました。Rezで思い描いていた世界を更に拡張し、若い世代の開発者を加えて、再構築したのがRez Infiniteです。2016年のPSVRのローンチに合わせて世界同時発売しました。2年後の2018年には、テトリスに新しい解釈を加え、更にVR化で今までにない体験のテトリスを作りました。勿論まだ解像度は足りないですが、イメージに近くなってきたなと感じています。
ようやく自分の中で思い続けたイメージが実現出来た。
『Rez Infinite』は、The Game Awards2016 ベストVRゲームを受賞されましたね!
Rezという作品は効果音が音楽化してそれがビジュアルと反応して、どんどん共感覚的な気持ち良さを体感していくゲームです。1回体験した方で何年もファンでいてくれる人が多いんです。このゲームは1回やって終わりじゃなくて、何回もやりたいという方が多くて色褪せません。今の解像度で最高の体験に置き換えて、もう1回リリースしてほしいと多くのファンの声が後押ししたっていうのは凄く大きいですね。一番嬉しかったのはThe Game Awards2016 ベストVRゲームの受賞です。世界中の約4500万人が見るアワードだと言われています。2016年にVRの部門が新設されたばかりだったので、最初のベストVRを取れたのが凄くみんな喜びましたね。ようやく自分の中で思い続けたイメージがここに実現出来たと実感出来ました。
VRの未来はこれから始まる
海外に比べて日本のVRマーケットの印象はいかがですか?
僕がVR関係者の方々とお話すると、日本が一番熱いVRマーケットで、熱狂的なファンが多いという話をよく聞きます。海外でも本当にVRやARに強く興味を持っている人が多いと感じます。きっとこれからの展開によっては、もっと動いていくんじゃないかな。XRの未来はこれから始まると思います。1回目のVRのブームが日本で来て、何となく今は落ち着いていて、人によってはVRのブームは終わっちゃったんじゃない?と言っている人もいますが、そんなのとんでもないという感じです。本当の時代はこれから始まる。僕は多分、今が一番ワクワクしているタイミングです。
エクスペリエンスを拡張するという会社のミッション
今はどんなものを開発されているのですか?
社名であるエンハンスには「拡張する」という意味があります。エクスペリエンス(体験)を拡張するということを会社のミッションにしているんです。新しい体験を拡張する。新しい体験を創造する。触覚も含めていろんな経験拡張を目指しています。「シナスタジア(共感覚)ラボ」というリサーチラボは、2月末に開催されたMedia Ambition Tokyoで、新しい作品を発表しました。2つのスピーカーと44個の振動子からなる共感覚体験装置です。X1と呼んでいます。僕らの興味や研究対象ははゲームに限定するものではなく、いかに気持ちのいい、感情を揺さぶるような体験を作り出すかというところにあります。ゲームはその表現の一つです。今現在も新しいプロジェクト取り組んでいるに最中で、今がおそらく人生で一番楽しいです。
今から先の未来は全然違う進化の仕方をする
改めて水口さんにとってVRの魅力とはなんでしょうか?
僕は今までのメディアが凄く不自然だと思うんです。ディスプレイは四角い画面で2Dです。僕らの世界ではすべてが3Dだし、どこにもフレームなんて無い。だから今までのテクノロジーは不自由だったと思います。VRは、僕らの感覚と馴染みのある世界に全部を引き戻してくれると思っているんです。そういう意味ではやっと人間にとってフィットするメディアが誕生したなと思います。XR全般にもそれが言えます。僕らの生きているこの世界と、新たに新しく創られてくる世界が合成されて来る。これが本当にエキサイティングなことはじまりだと思います。例えば活版印刷が最初に出来たのは5~600年前ですよね。基本的にあそこからずっと変わっていません。その途中で写真ができたり、写真が動いて動画になりました。しかし基本的にずっと四角い2Dの画面。これからは、今後何百年のための時代になると思います。進化の仕方もまったく異なるでしょう。今その瞬間にいるってことは、ものすごくエキサイティングな話なんです。クリエイターとしては、もう一回ゼロから新しい世界を作れる。僕はそのための準備としてVRをやってきたような気がしています。VRに出会って30年位、と若い人が聞くと凄く長いと思うかもしれませんが、自分自身からすると一瞬のような出来事で、今現在は若い人ときっと同じような感覚でワクワクしています。若くても歳をとっていても同じように興奮するタイミングだと思います。ようやく新しい時代の扉を開けられる。VRの魅力ってそれに尽きると思うんです。
今までの時代は情報の時代でした。単感覚の情報のやりとりをしている。オーディオやビジュアルと合わさっても、意外と“モノ”的な感じがします。これからは、それらがすべて束になって全部体験に変わるんです。その筆頭がVRで、始まりがVR。おそらくVRもより大きく変容してくると思いますね
水口哲也|TETSUYA MIZUGUCHI
米国法人エンハンス代表。2001年映像と音楽を融合させたゲーム「Rez」を発表。その後、音と光のパズル「ルミネス」(2004)、キネクトを用い共感覚体験を可能にした「Child of Eden」(2010)、RezのVR拡張版である「Rez Infinite」(2016)、テトリスの共感覚VR拡張版「Tetris Effect」(2018)など。2002年文化庁メディア芸術祭特別賞、2006年米国プロデューサー協会(PGA)より「Digital 50」(世界のデジタル・イノヴェイター50人の1人に選出)。2017年米国The Game Award最優秀VR賞受賞。慶應義塾大学大学院メディアデザイン研究科(Keio Media Design)特任教授。エッジ・オブ共同創業者。