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5G時代に向けた高品質VRシステム
株式会社NTTドコモ 移動機開発部 第二イノベーション推進担当 担当課長 博士(情報学)
的場 直人
NTTドコモは2020年のサービス提供開始をめざして、第5世代移動通信システムである「5G」の研究開発を進めている。その発表の場として先日、日本科学未来館で行われた「docomo R&D Open House 2017 in TOKYO」にてNTTドコモ 移動機開発部 担当課長・的場 直人氏に2020年サービス開始予定の「5G」を利用した「VR」の活用についてインタビューを行った。
高品質(8K60fps)世界初!パノラマ映像システム。今回開発中のヘッドマウントディスプレイはNTTの映像技術や、シャープのIGZO液晶パネル(1,008ppi)、ヤマハの64ch立体音響技術を組み合わせて実現。体験者の頭の向きに合わせて、観ている部分の映像だけを精細に表示できるのが特徴。用意された8Kの映像には、NTTテクノクロスの「パノラマ超エンジン」技術を採用しており、5G通信と組み合わせることで、臨場感のある映像を体験可能になるという。
「5G」通信でVR映像を見ることが簡単になる
通信業界にとっても2020年のオリンピックは1つのマイルストーンだと思います。あと3年で、どのようなステップで発展を遂げていくのでしょうか?また、「5G」の技術はどのようなビジネスに活用されていくと思われますか?
まず、「5G」の特徴は高速大容量と伝送遅延の軽減、多数の端末への接続が可能なところです。携帯端末だけではなくIoT、例えば、家電や衣服などすべての端末に接続できる世界を目指しています。そして、今回我々が行っているのは、2020年のオリンピックをはじめ、大きなイベントでの「5G」による無線通信の活用を目指した実験的な取り組みです。無線で運用ができるので、スタジアム内のありとあらゆる箇所にカメラを設置することが可能になり、それをVR映像として見ることがより簡単になります。その他、様々なアプリケーション(自動運転/筋繊維の測定/遠隔操作可能なロボット等)にこの5G技術が使用できることを、このような展示会を通して発表しており、賛同していただけるパートナー企業と様々なショウケースを作って実験を行っています。
実際にオリンピックがメインイベントとなりますが、それ以降も我々のインフラを使った様々なジャンルでの活用を目指していて、特にVRを使った、スポーツ・音楽といったエンターテインメントのジャンルは、まるでその場にいるかのような〝臨場感があり、よりリッチ〞と感じてもらう世界を目指しています。
今現在、ライブ動画は通信遅延がありますが、どのようにお考えでしょうか?
ライブ配信を遠隔地で視聴するような場合は、遅延は気にならないと思いますので、サーバーでバッファリングして様々な通信環境のユーザでも安定して受信できるようにしています。一方、スタジアムソリューションのように大きなスタジアム内において、自分がスタンドにいたとして、他地点からのアングル、例えばフィールド内のカメラで見るようなアプリケーションでは、現実の状況が直接見えていますので、遅延が気になると思います。その場合は伝送よりも高解像度映像の処理遅延のほうが課題となってくるでしょう。したがって「5G」の開始と合わせてそういった処理遅延を削減する技術も重要になってくると思います。
世界初の8Kパノラマ映像が体験可能なHMD
今回展示している8Kパノラマ映像を体験出来るHMDを一般に発売するとしたら?
世界で初めてVRの8K映像を体験できるHMDを開発し、世の中に出したことは一つ大きな進歩だと思っています。ただ、まだ開発途上ですし、これからいろいろな評価を行っていく必要があります。また一般に発売するのであればコストも考慮しなければいけません。将来的には、このようなPC接続型でなく、ある程度性能や機能に制約があっても使い勝手のよいスタンドアローン型のHMDのほうが普及するかもしれません。
3DCGの自由視点映像をライブ伝送
「Free View Point LiveⅡ」
360度の方向から取り囲む、多数のカメラからクロマキーを使わずにリアルタイムで人物を3DCG合成し、5Gの超高速伝送を生かして大容量の3DCG映像を遠隔地へライブ配信できる。VR空間内で他のCGと組み合わせた表示やリアルタイム性を生かした双方向コミュニケーションが可能となる。
いかに低遅延で〝リッチ〞にやるかが今後の課題
コミュニケーションの分野では「5G」になることによってどんな新たな分野の開拓につながるのでしょうか?
例えばテレビ電話や複数人でのテレビ会議も、本当にそこに人がいてあたかも話しているように感じさるためには、映像品質を向上させ、たくさんの情報を送らなければいけません。5Gの大容量通信によりこのようなリッチなコミュニケーションが可能となりますが、その反面、送られてきた情報を処理する段階でどうしても処理遅延が生まれてしまいます。そういった問題に対して、いかに低遅延で〝リッチ〞にやるかが今後の課題となってきますね。ある程度の遅延を許容して高品質をとるのか、品質を犠牲にしてレスポンスを重視するのか、アプリケーションによってバランスを見極めることが必要だと思います。
コミュニケーションにおいて「VR」は重要な技術の一つで、相手に音声や映像だけでなく、場の雰囲気までも伝える手段になると期待しています。さらに、相手の脳波や脈拍をウェアラブル端末からデータとして送って、話している人の感情を映像に表現させたりするのも一つのアイデアだと思います。2020年の「5G」実用化は、人々の暮らしを一変させる可能性を持っていると思います。
株式会社NTTドコモ 移動機開発部 第二イノベーション推進担当
担当課長 博士(情報学)
的場 直人
1994年NTT入社。無線システムの研究開発や第4世代移動通信の国際基準化活動に従事。その後、端末ソフトウェアの導入、海外のオペレータやベンダと協力した新モバイルOSの立ち上げ、2015年よりVRの事業化、VR関連技術開発に取り組んでいる。