VRunner

VRマーケットを牽引するトップランナーのインタビュー誌

低価格なお試しを経てVR文化は開花する

低価格なお試しを経てVR文化は開花する

低価格なお試しを経てVR文化は開花する
株式会社桜花一門 代表取締役社長 NPO法人JapanVR Fest.理事長
高橋 建滋

2017年11月4日(土)。久々に清々しい秋の晴天。世間が連休、行楽日和と浮かれるなか、御茶ノ水のVRプロフェッショナルアカデミーでは、20代から30代の学生とエンジニアたちが先駆的な講義に耳を傾けていた。同日、そこで教鞭をとっていたのは、株式会社桜花一門の代表取締役社長高橋建滋氏だ。制作過程で出てくる様々な事象を経験から洞察し、学生をリードしながら問答しつつ「妄想力」を鍛えていく。時に笑いも混じる、そんな熱い授業の終了後、高橋建滋氏が考える「VRの未来」について語ってもらった。

VRハードの2016-17年はPCの1981年

日本でも海外でも、VR体験をしたことのある人がまだまだ少ないので、VRの認識は〝未知の機械〟のままです。早くその状況からは脱しなければならない。2013年、秋葉原でVR文化を拡げる開発者団体〝OcuFes〟を立ち上げました。

その活動の柱は「日本全国民、1億人にVR文化を体験させる」こと、「VR作家に発表の場と発表の喜びを与える」こと、「VR作家達の知識や人脈のハブとなり、VR文化をもっと加速させる」ことです。あれから4年、NPO法人となり団体名はJapanVR Festとなりましたが、この3本柱は変わりません。VRの普及は10倍以上になったかもしれませんが、もとの数字が低いので100倍になってもまだ足りないと感じているのです。

VR文化の広がりをパソコン普及の歴史になぞらえて見た場合、VRの2016-2017年はPCの1981年当時に相当します。1981年というのはインベーダーゲームが世に出てから2年が経ち、PC6001という日本初のホビーユースのマイコン(マイクロコンピュータ)が発売され、家庭用ゲーム機ではカセットビジョンが発売された年。未だ1983年のファミコン発売にも至っていない段階です。マイコンブームと呼ばれ、世間が騒いでいた時代は40代以上の方なら強く記憶に残っていると思いますが、実は当時、このマイコンは15万程度しか売れていませんでした。PlayStationVRが日本国内においてここ1年間で20万台弱売れたことを考えると、まさにマイコンと同規模程度と言えるでしょう。

しかし、あと2年ぐらいでファミコン級の普及力を持つVR機器は出てくるだろうと考えます。それが2万円台のスタンドアローン型HMD〝Oculas Go〞や同じく一体型の〝HTC Vive〞になるのかもしれない。そして、その後の展開には、価格破壊も含めてプライスがどうなっていくかも重要なカギを握っています。

ハード需要のUPがソフトウエアの需要のUPを牽引する

一方のコンテンツの現状はというと、面白いものもたくさんあるにはありますがユーザー数が少なすぎて供給過多になっています。需給バランスが偏っているため、決してソフトウエアは儲かっているとは言い難い。ただし、先述の〝 Oculas Go〞や〝HTC Vive〞のハードが牽引する需要のUPがソフトウエアの需要のUPも引き起こすと考えています。

VR ZONEやアドワーズなどに代表されるロケーションVRに関して言うと、事業者にとっては導入コストがかかりすぎ、お客さんとしては遊ぶためのコストがかかりすぎというのが現状。だから、全国のゲームセンターに類似の設備をボコボコ増やすのはとうてい無理な話ですよね。1台300万円のマシンを×数台。壊れやすい周辺機器に対応するメンテナンスの人件費が重なれば、果たして回収できるのか…。となる。もっともっと低価格な、低コストロケーションVRをつくるべきです。そこを、儲かる儲からないという点は度外視してやっていきたいと私は考えています。

VRアカデミーで生徒に講義をする高橋氏

地方でわざわざを排除したあちこちにある低価格なVR体験

1億人にVR文化を体験させること。それはJapanVR Fest (旧OcuFes)の活動の大きな柱として掲げた理念です。低コストロケーションVRを全国にバラまいて、1億人に体験してもらう。体験した人の1/100の100万人を相手に商売が成り立てば成功といえます。スーパーの試食コーナーの横で材料の産地の様子が見られるVRが置いてあるぐらい〝ライトであちこちにある〞という環境をつくりたいです。

機器に対するストレンジな感じが払拭され、親和性が生まれたら次の段階として、機器が買われ、家庭に入り続いてソフトが売れるという広がりのストーリー。その検証はもう「地方から」始まっています。VRに親和性のない8割の人たちに広げたい、だからこその地方。また、VRに親和性のない8割の人たちに向けてVRを広げるにはわざわざ予約をするとか、わざわざ足を運ぶとか、わざわざ機器をつなぐといった「わざわざ」を排除したハードルの高くない体験機会が必須だと思うのです。

この「わざわざの排除」というのは裏返せば「たまたま」。これも重要なテーマになっています。ミニマム4セット15万円ぐらいの機器を全国にまいて「chain man」をはじめ最低限、コンテンツは自分たちで供給できるようにしていきたい。かつて街頭テレビを全国に配った正力松太郎氏や、全駅でADSLのモデムを配った孫正義氏のように、低価格で気軽にお試しができて、その次には新たな時代がやってくるはずだと、私は確信しています。

 

唯一〝儲け度外視〞の日本人の国民性が生む新展開

世界の中で日本のVR開発のポジショニングや役割について、アメリカ、中国、韓国が儲かる分野にパワーを集中投下するのに対し、日本の個人開発者には、儲け度外視であらゆる方位を向く多様性があリます。
だからこそ、まだ見ぬ宝島を発見できるのではないでしょうか。

株式会社桜花一門 代表取締役社長 NPO法人JapanVR Fest.理事長
高橋 建滋
キックスターターで手に入れたOculusDK1にはまり、ソフト開発をしつつソフトの展示会、オキュフェス(現JapanVR Fest.)を開催。その後、独立してVR専業となる。VRファンドより投資を受けて株式会社化、人生をVRにかける日本のVR先駆者の一人。

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